エールビールとは、一般的にエール酵母を使い、比較的高めの温度で発酵させて造るビールです。
ペールエールやIPAのようにホップの香りを楽しむものもあれば、ヴァイツェンのように酵母の香りが目立つもの、スタウトのように麦芽の香ばしさを楽しむものもあります。
ちなみに、中世のヨーロッパでは、ホップを使わない麦芽の酒をエールと呼ぶ時代があったようです。
その後、ホップの普及、醸造技術の発展、産業革命、ラガーの登場を経て、現在の「上面発酵ビール」という分類に変化していきます。
この記事では、エールとは何かという基本から、造り方、香りが生まれる理由、代表的な種類、そしてエールが歩んできた歴史をまとめます。
エールビールとは何か
現在のビールは、発酵に使う酵母や発酵方法によって、大きくエールとラガーに分けられます。
エールは上面発酵で造られるビールを指す
現代のエールは、一般的にエール酵母を使い、ラガーよりも高めの温度(17~24℃程度)で発酵させて造られるものを指します。
エール酵母として主に使われるのが、サッカロマイセス・セレビシエと呼ばれる酵母です。
伝統的な発酵方法では、発酵中に酵母が泡とともに液面付近へ集まり、厚い層を作ることがありました。
この様子から、エールの発酵は「上面発酵」と呼ばれています。
エールビールはどのように造られるのか

エールもラガーも、麦芽から糖分を取り出し、酵母に発酵させるという基本的な製造工程は共通しています。
麦芽を糖化して麦汁をつくる
ビール造りでは、まず大麦などを発芽させて乾燥した麦芽を使用します。
麦芽を細かく砕き、温めた水と混ぜることで、麦芽に含まれるデンプンを酵母が利用できる糖へ変えていきます。
この工程が「糖化」です。
糖化後は、麦芽の固形物と液体を分け、甘みを持つ麦汁を取り出します。
麦芽の種類や焙煎の程度によって、完成するビールの色や香ばしさ、甘み、コクが変わります。
淡い麦芽を中心にすればペールエールのような明るい色になり、強く焙煎した麦芽を使えばスタウトのような黒い色と香ばしさが生まれます。
麦汁を煮沸してホップを加える
取り出した麦汁は、釜で煮沸します。
煮沸には麦汁を殺菌するほか、不要な成分を取り除き、ビールの味を安定させる役割があります。
このときに加えられるのがホップです。
ホップはビールに苦味と香りを与えるだけでなく、保存性を高める役割も果たしてきました。
煮沸の早い段階で加えたホップは苦味が出やすく、終盤に加えたホップは香りが残りやすくなります。
IPAやペールエールでは、発酵中や発酵後にホップを加えるドライホッピングが使われることもあります。
エール酵母を加えて発酵させる
煮沸した麦汁を冷却したあと、エール酵母を加えます。
酵母は麦汁に含まれる糖を取り込み、アルコールと炭酸ガスを作り出します。
エールの発酵温度は一律ではありませんが、一般的にはラガーよりも高めです。
この温度帯で発酵することで、アルコールや炭酸だけでなく、エステルやフェノールと呼ばれる香気成分が生まれる場合があります。
ただし、香りの強さは温度だけで決まるものではありません。
酵母の種類、麦汁の濃さ、酵母の量、酸素の状態などによっても、完成する香りは変化します。
発酵後に熟成させて味を整える
発酵が進んで糖が減ったあとも、ビールはすぐに完成するとは限りません。
酵母を沈殿させたり、発酵中に生まれた香りを整えたりするために、一定期間の熟成を行います。
エールはラガーほど長期間の低温熟成を行わないことが一般的ですが、すべてのエールが短期間で完成するわけではありません。
アルコール度数の高いエールや樽熟成ビールでは、数か月以上熟成させることもあります。
熟成後は、タンクや瓶の中で炭酸を加え、缶、瓶、樽などに詰められて出荷されます。
瓶や樽の中で酵母による再発酵を行い、自然な炭酸を作るエールもあります。
エール特有の香りや味はどこから生まれるのか
エールは香りや味の幅が広いビールです。
その個性はエール酵母だけでなく、麦芽、ホップ、副原料、発酵温度などが組み合わさって生まれます。
酵母がフルーティーな香りを生み出す
エール酵母は発酵中に、エステルと呼ばれる香気成分を作ることがあります。
エステルは、りんご、洋梨、バナナ、柑橘類、ドライフルーツなどに例えられる香りのもとになります。
どの香りが出るかは、使用する酵母によって異なります。
例えば、ヴァイツェンで使われる酵母はバナナを思わせるエステルや、クローブを思わせるフェノールを作りやすい性質があります。
一方、アメリカンペールエールなどでは、酵母由来の香りを抑え、ホップの香りを目立たせる酵母が使われることもあります。
麦芽とホップによってエールの個性が変わる
エールの香りは、酵母だけで決まるわけではありません。
ペールエールやIPAでは、ホップによる柑橘、松、ハーブ、花、トロピカルフルーツなどの香りが主役になることがあります。
ブラウンエールでは、麦芽由来のパン、ナッツ、キャラメルのような香りが感じられます。
スタウトやポーターでは、強く焙煎した麦芽や大麦によって、コーヒー、カカオ、焦がしたパンのような香ばしさが生まれます。
使用する原料と酵母の組み合わせが変わることで、同じエールでもまったく異なる味わいになります。
エールビールの歴史

ホップの普及、都市の発展、産業革命、新しい麦芽製造技術、ラガーの台頭などによって、「エール」という言葉と飲み物は何度も姿を変えてきました。
ここでは、中世から現代までのエールの歴史を紐解いていきます。
中世ではホップを使わない飲み物がエールと呼ばれた
中世のヨーロッパでは、穀物を発酵させたさまざまな飲み物が造られていました。
イングランドにはエールと呼ばれる飲み物は存在していましたが、主に「麦芽、水、酵母」を使って造られており、現在のビールのように必ずホップを入れるものではありませんでした。
また、ホップの代わりに、複数のハーブや香辛料を混ぜたものを使う地域もありました。
当時は発酵の仕組みや酵母の存在が科学的に理解されておらず、過去にうまく発酵した液体や酵母を次の仕込みに使うことで、経験的にエール造りが受け継がれていたようです。
15世紀ごろからホップ入りのビールが広がる
ホップを使った醸造は、イングランドよりも先にヨーロッパ大陸の一部で広がっていました。
14世紀から15世紀にかけて、低地地方からイングランドへ醸造家や商人が移り、ホップを使ったビールの生産が増えていきます。
当初のイングランドでは、昔から飲まれてきたエールと、ホップを使った新しいビールが区別されていました。
ホップの苦味を好まない人もおり、その使用が警戒された時代もあります。
しかし、ホップには味を引き締めるだけでなく、雑菌による劣化を抑えて保存期間を延ばす利点がありました。
輸送や保管に向いていたことから、ホップを使うビールは次第に普及していきます。
ホップの普及によってエールとビールの区別が薄れる
ホップ入りビールが定着すると、イングランドのエールにもホップが使われるようになります。
その結果、「ホップなしがエール、ホップありがビール」という区別は次第に曖昧になりました。
18世紀ごろには、エールとビールという言葉が、現在ほど明確ではない形で使われるようになります。
色、強さ、熟成期間、醸造所の慣習などによって呼び分けられることもあり、時代や地域によって意味が異なっていました。
18世紀のロンドンでポーターが発展する
18世紀のロンドンでは、人口の増加と都市化によって、大量のビールが求められるようになりました。
この時代に大きく発展したエール系ビールがポーターです。
ポーターは濃い色と麦芽の風味を持ち、大きな容器で熟成させてから販売されました。
ロンドンの市場や港で荷物を運んでいたポーターと呼ばれる労働者に好まれたことが、名前の由来とされています。
ポーターの人気によって醸造所は大型化し、大きな発酵槽や貯蔵槽、蒸気機関などの新しい設備が導入されました。
ポーターは、家庭や小規模な醸造から、近代的なビール産業へ移る過程を象徴するスタイルでもあります。
麦芽製造技術の進歩からペールエールが生まれる
18世紀以降、間接的な熱を利用して麦芽を乾燥させる技術が発展し、色の淡いペールモルトを安定して作れるようになります。
このペールモルトを中心に造られたのがペールエールです。
それまで一般的だった茶色や黒に近いビールと比べ、明るい色を持つことからペールエールと呼ばれました。
ペールエールの中には、長期間の輸送を意識してホップを多く使用したものもありました。
イギリスからインドへ輸出されたペールエールは、後にインディア・ペールエール、略してIPAと呼ばれるスタイルへ発展していきます。
ポーターからスタウトが分かれていく
スタウトという言葉は、もともと「強い」「頑丈な」という意味で使われていました。
アルコール度数や味わいが強いポーターは、スタウト・ポーターと呼ばれることがあります。
その後、スタウトという名前が独立して使われるようになり、ポーターとは別のスタイルとして認識されるようになりました。
現在は、ローストした大麦を使うものをスタウト、麦芽を中心に香ばしさを作るものをポーターと説明することがあります。
19世紀以降はラガーが世界に広がる
エールが発展していた一方、中央ヨーロッパでは低い温度で発酵・熟成させるビール造りが行われていました。
そして、低温環境に適応したラガー酵母と、冷却設備や冷蔵技術の発展が組み合わさり、ラガーを年間を通して安定して生産できるようになります。
19世紀には淡い色のピルスナーが登場し、透明なグラスや瓶の普及もあって、明るく澄んだ見た目が人気を集めました。
ラガーは大量生産や長距離輸送にも適していたため、世界のビール市場で大きな割合を占めるようになります。
20世紀後半にクラフトビールがエールを再び広める
20世紀後半のアメリカでは、大手メーカーが造る淡色ラガーが市場の中心になっていました。
その一方で、小規模醸造所やホームブルワーの間では、香りや味の個性を持つビールを造ろうとする動きが始まります。
アメリカの醸造家は、イギリスのペールエールやIPAを参考にしながら、アメリカ産ホップの強い柑橘香や松のような香りを前面に出しました。
1980年代以降、アメリカンペールエールやアメリカンIPAが広がり、現代のクラフトビール文化を代表する存在になります。
その後、IPAは苦味を強調したものだけでなく、香りを重視したもの、濁りと柔らかな口当たりを持つものなどへ細分化されました。
代表的なエールの種類
現在のエールには、数多くのスタイルがあります。
ここでは、日本のビール売り場やクラフトビール店で比較的見かけやすい種類を紹介します。
ペールエール
ペールエールは、淡い色の麦芽を中心に造られるエールです。
麦芽の甘みとホップの苦味や香りのバランスを取りやすく、エールの入門として選びやすいスタイルです。
イングリッシュペールエールでは、麦芽の風味と穏やかなホップの香りが感じられます。
アメリカンペールエールでは、柑橘類や松を思わせるアメリカ産ホップの香りが強く出る傾向があります。
詳しい特徴は「ペールエールとは?特徴・味わい・IPAとの違いを初心者向けに解説」で扱います。
IPA
IPAは、ペールエールから発展したホップの存在感が強いエールです。
一般的なペールエールよりも、ホップの香りや苦味、アルコール感が強くなる傾向があります。
現在は、苦味がはっきりしたウェストコーストIPA、濁りと果汁感のあるヘイジーIPA、アルコール度数を抑えたセッションIPAなど、さまざまな種類があります。
IPAの歴史と種類は「IPAとは?特徴・種類・苦味が苦手な人の選び方」で詳しく整理します。
ヴァイツェン
ヴァイツェンは、小麦麦芽を多く使って造られるドイツ系のエールです。
ヴァイツェン酵母が作るバナナのような香りと、クローブを思わせるスパイシーな香りが特徴です。
白く濁った見た目と柔らかな口当たりを持ち、ホップの苦味は控えめなものが多くあります。
ビールの苦味が苦手な人にも試しやすいスタイルです。
詳しくは「ヴァイツェンとは?特徴・味わい・白ビールとの違いを解説」で紹介します。
スタウトとポーター
スタウトとポーターは、濃い色と香ばしい味わいを持つエールです。
コーヒー、カカオ、焦がしたパン、キャラメルなどを思わせる香りが感じられます。
黒い見た目から重いビールと思われやすいものの、ドライスタウトのように甘みが少なく、軽快に飲めるものもあります。
一方、ミルクスタウトやインペリアルスタウトには、甘みや高いアルコール感を持つものがあります。
両者の歴史的な関係は「スタウトとは?特徴・味わい・ポーターとの違いも解説」で詳しく扱います。
エールとラガーは何が違うのか
エールとラガーの最も基本的な違いは、主に使用する酵母と発酵温度です。
使用する酵母と発酵温度が異なる
エールでは、主にエール酵母を使い、比較的高めの温度で発酵させます。
酵母由来のエステルやフェノールが現れやすく、香りの個性を作りやすい方法です。
ラガーでは、主に低温に適応したラガー酵母を使います。
低めの温度で発酵させたあと、さらに低温で熟成させることで、雑味の少ないすっきりした味わいになりやすい傾向があります。
ただし、実際の温度や熟成期間はビアスタイルや醸造所によって異なります。
発酵方法だけで味は決まらない
エールだから香りが強く、ラガーだから味が弱いとは限りません。
エール酵母を使いながら低温熟成させるケルシュやアルトのようなスタイルもあります。
反対に、ボックやドッペルボックのように、ラガー酵母を使いながら濃厚な麦芽の味を持つスタイルもあります。
エールとラガーは味の強弱ではなく、ビールを理解するための大きな分類です。
詳しい違いは「ビールの種類とは?エールとラガーの違いを解説」で整理しています。
まとめ|エールの歴史を知ると種類の違いが見えてくる
エールビールは、現代では主にエール酵母を使い、比較的高めの温度で発酵させるビールを指します。
酵母が作る香りに加え、麦芽やホップの組み合わせによって、幅広い味わいが生まれます。
ただし、エールという言葉は昔から同じ意味だったわけではありません。
中世のイングランドではホップを使わない飲み物がエールと呼ばれ、ホップ入りのビールとは区別されていました。
その後、ホップの普及によって区別が薄れ、産業革命の時代にはポーター、麦芽製造技術の進歩からペールエールやIPAが発展します。
各時代の人々のビールへの思いがエールを発展させたことを思うと、どんなスタイルでも先人に感謝しながら美味しくいただけますね!
